東京高等裁判所 昭和34年(行ナ)55号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決が、本願考案は、ハブの内側カバーをハブに取り付けるに当たり、ハブの中心腔の基端内周面の輪溝と内側カバーの錐面との間に、弾性切欠リングを介在させたに対し、第一引用例は、螺合環を螺合締着してなる構造である点で、両者相違するが、この相違点についての本願考案の技術思想は第二引用例に開示されているとしたことは明らかであるところ、当裁判所は、以下に説示するとおり、第二引用例には本願考案の前示の技術思想は何ら開示されていず、したがつて、本件審決は、この点の認定を誤り、ひいて誤つた結論を導き出した違法があり、取消しを免れないものと判断する。
1 前記当事者間に争いがない事実に、本願実用新案登録願書および添付書類および昭和三二年六月一三日付訂正書差出書ならびに添付の説明書および図面を総合すると、本願考案の要旨は、「基端側外稜部1に沿い錐面2を特に形成した円輪形内側カバー3を軸頭5に嵌合し、軸端6に嵌合した座金7と上記内側カバー3との間に転軸受8、8'及び中介管16を嵌合したる軸頭5をハブ11の中心腔9内に嵌入し、中心腔9の基端側内周面の輪溝12に弾性切欠りんぐ13を挿入することにより内側カバー3の錐面2に弾性切欠リング13を圧接せしめたる鉄道車両、炭車、トロ用転軸受入車輪の構造」(別紙一の図面参照)であり、その説明書中の「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項の記載によると、従来の転軸受入車輪は、ハブ付属のカバーまたは軸受の脱出防止の手段として、ボルトまたはピン等を使用していたが、この構造では、車輪の動揺による緩みや脱落等が極めて多く故障の続出または不慮の災害を惹起する欠陥があつたが、本願考案は、この問題の解決を技術的課題とし、その手段として、上記の構造、特に弾性切欠リング13をハブ11の中心腔9の基端側内周面の輪溝12と内側カバー3の錐面(断面直線、断面曲線のいずれをも含む。)との間に嵌入、圧接せしめる構成を採ることにより、上記の課題を解決したものであり、この構造によると、車輪に加わる外力のため車輪が内方へ抑圧される場合、その圧力はハブ11と一体に形成された外壁側10の基部の段17において一応受圧され、さらに内側カバー3の錐面2を通じて弾性切欠リング13の外周面に加わり、また、外力のため車輪が外方へ抑圧される場合、その圧力は上記リング13の外周面を通じて内側カバー3の錐面2に加わるが、これらの圧力は、いずれも、錐面2と弾性切欠リング13との切点における垂線方向と錐面2に沿う方向とに分れるため、その圧力が強い程垂線方向の分力もまた上記リング13を輪溝12の内奥へ抑圧する力を増大し、したがつて、従来の如何なる取付方法よりも簡単かつ完全に車輪の脱出を防止することができ、実験の結果では、弾性切欠リングはその破壊前に車輪が破壊するほどの圧力に耐え、嵌合物である内側カバー等の脱出を防止する顕著な作用効果を奏しうるものであることを十分認めることができる。
2 第二引用例は、昭和一一年一〇月一〇日出願公告にかかる自転車「ハブ」に関する実用新案公報であり、その構造は、「ハブ球押(1)の側面において球当面(2)より外方に円杆状部(3)を設け、その外方に環縁(4)を突設し、環縁(4)の外周面をハブ椀(5)の内周面と接触せざる程度になるべく接近せしめ、環縁(4)に接する円杆状部(3)にフエルト環(6)を嵌挿し、その内周縁を筒状に搾出したる押座鈑(7)を嵌挿し、押座鈑(7)の接触する部分の円杆状部(3)に輪状溝(8)を穿ち、一箇所切断し、弾性を与えたる針金輪(9)を該溝(8)に嵌合して押座鈑(7)の後退を阻止してなる自転車ハブの構造」(別紙二の図面参照)であり、右の構造により、弾性切欠針金輪がフエルト環に装着させた押座鈑つまりはフエルト環の後退を阻止し、球軸受部に雨水塵埃の侵入するのを防止するとともに、工作および組立が容易でフエルト環の着脱を自在にし、容易に取り代えうる作用効果を期待したものであることは明らかであるところ、図面第二図に、押座鈑(7)の角が断面曲線状をなし、この部分と針金輪(9)との切点を通る切線に垂直に円杆状部(3)の内方軸に向けて矢印が附されていることが図示されている事実(原告は、押座鈑の角の断面曲線は工作上当然に生じたもので意欲的に作られたものでない旨主張するが、右主張は前認定の事実に照らし、採用できない。)に徴すると、第二引用例のフエルト環の針金輪による後退防止は、前認定の本願考案の弾性切欠リングによる内側カバーの脱出防止と力学的原理を同一にするものと認められる。しかしながら、第二引用例において、針金輪は、本願考案と異なり、単にフエルト環の弾力に耐えてフエルト環を所定の位置に係止することを目的とすることは前認定のとおりであるから、針金輪に加わる力がそれほど大きくないことは見易いところであり、また、第二引用例において、ハブ球押(1)は車軸にねじにより固定され、ハブ球押(1)の円杆状部に針金輪、フエルト環および押座鈑が嵌挿、組み合わされ、これらを取り付けたままでハブの解体が可能な構造であることが認められるから、構造上、フエルト環の弾力以外の外力(振動等)が針金輪に加わつたとしても極めて軽微であることは容易に推認することができる。叙上認定の事実に徴すると、第二引用例の針金輪と押座鈑の断面錐面状との組合せ構造は、技術的にいつて、本願実用新案が解決の課題としたハブの内側カバーを弾性切欠リングにより係止した場合に生ずるような極めて大きな荷重に耐えることを目的としたものでないことは明らかであり、また、このような場合を予測したものと認めることもできないから、結局、第二引用例には本願考案と同一の技術思想が開示されていると認めることはもとより、これを示唆しているものと解することもまたできないものといわざるをえない。そして、右認定の事実に、本願実用新案の作用効果が前示のとおり顕著なものがあることを考え合わせると、本願考案は、第一引用例と第二引用例から容易に考案しうる程度のものとは、とうてい認めることはできない。
3 してみれば、本件審決は、第二引用例に示された技術思想についての認定を誤り、ひいて、本願考案は第一引用例と第二引用例から容易に考案しうる程度のものとの誤つた判断をするに至つたものというべきである。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、本件審決は、進んで爾余の点について判断を用いるまでもなく、失当なものというべく、したがつて、前記の点に判断を誤つた違法があるとして、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由がある。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)